【1. MIGOとMMBEの基本的な位置づけと概要】
まずはMIGOとMMBE、それぞれがSAPにおいてどんな役割を担っているのかを確認しましょう。
■ MIGOとは
- 目的
MIGO(Goods Movement)は主に在庫の出入庫(入庫・出庫)や振替、棚卸、その他さまざまな「物理的な在庫変動をシステム上に反映させる」ためのトランザクションです。 - 特徴
- 実際の業務で発生する入庫(Purchasingや生産オーダー完了時など)や出庫(販売出荷やサンプル放出など)をSAPに登録する際に使用します。
- テキストや添付ファイル(物理在庫移動に関する書類)を残すことも可能で、監査やトレーサビリティを強化するうえでも重要な役割を果たします。
- 標準機能
- 1画面でいくつかの動作(GR=Goods Receipt、GI=Goods Issue、Transfer Postingなど)が可能。
- 旧来はMB01、MB1A、MB1B、MB1Cなど個別に存在したトランザクションを統合した形で、シンプルなインターフェースを提供。
- 実際に移動を登録する際に、ドキュメント(Material Document)の発番や会計仕訳(FI)との連携、品目原価計算(CO)モジュールとの連動など多角的に機能を有しています。
■ MMBEとは
- 目的
MMBE(Stock Overview)は、現在の在庫数量や在庫状況を「閲覧」するためのトランザクションです。 - 特徴
- 在庫情報を包括的に確認できるため、プラント、保管場所、バッチ、特殊在庫などを一目で把握できる点に強みがあります。
- 品目ごとの在庫合計を確認したり、各ロケーションにどのくらいの在庫が割り当てられているか、予約や発注待ちなどの状況をまとめて把握できます。
- 標準機能
- 在庫確認の目的で最も使われる代表的なトランザクション。
- リアルタイムで在庫数を照会できるため、営業や生産管理など在庫に関わるあらゆる部門が活用しています。
- フィルタ機能を使って、特定のロケーション単位や特殊在庫だけを抽出することも可能。
これら2つのトランザクションは「在庫」を起点としているものの、MIGOは“在庫を動かす”操作、MMBEは“在庫をチェックする”操作に特化していると言えます。
【2. MIGOを利用する具体的なタイミングと操作フロー】
在庫管理業務でMIGOを使うシーンを、もう少し詳細に整理してみます。たとえば購買プロセスを例に取ると、以下のようなフローになります。
- 購買発注(ME21Nなど)
- 購買部門が取引先に対して発注書を発行する。
- 入荷(MIGO)
- 納品が届いた時点で、現場担当が製品の受入を行い、システム上で「入庫(Goods Receipt)」を登録する。
- 請求書照合(MIROなど)
- 仕入先からの請求書と実際の入庫数および発注データが合致しているか確認し、会計処理を行う。
この中で、「2. 入荷(MIGO)」が担当するのが、まさにMIGOトランザクションの役割です。ここでは、以下のような画面項目や機能がポイントとなります。
- 動作タイプ(Movement Type)の選択
- 例:101(入庫)、201(コストセンター出庫)、305(プラント間振替)など。
- 数量、バッチ情報の入力
- 在庫管理上、バッチ管理が必要な場合はバッチ番号の登録も必須。
- 会計ドキュメントとの連動
- 物理在庫の動きに応じて財務会計(FI)や原価計算(CO)を同時に更新。
- 参照機能
- 既存の購買発注(PO番号)や納品書番号などを参照して入力情報を減らし、入力ミスを防止。
実際の現場では、納品内容に不備がないか、品質検査が必要かどうかといったステータスも合わせて管理することが多いです。品質管理モジュール(QM)が導入されている場合は、MIGOで入庫する際に検査ロットの生成やステータス(品質在庫、未検査在庫、使用可能在庫など)の切り替えも同時に行われます。
【3. MMBEで在庫を閲覧・分析するメリットと使い方】
一方、MMBEは現在の在庫を様々な角度で分析したい場合に便利です。一般的な利用シーンとしては以下のような例があります。
- 出荷指示の前に在庫数を確認
- 営業担当者が販売オーダーを作成する前に、対象の品目が十分に在庫されているかを素早く確認。
- 在庫過不足の把握
- 在庫水準が適正か、発注が必要なタイミングかどうかを在庫推移から検討。
- 移動平均原価や標準原価の参照
- MMBEの画面上では、ストック数とともに評価価格を確認することも可能(ただし設定や画面レイアウトによる)。
MMBEの特徴としては、検索時にプラント、保管場所、バッチ、特殊在庫タイプ(例:プロジェクト在庫、受託在庫など)を指定できるだけでなく、結果画面でもツリー形式で階層的に在庫を展開して表示できる点が挙げられます。これによって、複数の拠点やロケーションをまたいだ在庫状況をまとめて把握することができるわけです。
また、MMBEでは「入庫予約」や「出庫予約」など、未だ確定処理に至っていない発注残や倉庫内指示なども表示されるケースがあります。このため、実際にどの程度の在庫が他の需要にすでに押さえられているのかを把握するのにも役立ちます。
【4. MIGOとMMBEの活用における共通注意点】
SAPの在庫管理では、MIGOとMMBEは切っても切れない関係にあります。MIGOで物理的な移動を記録し、その結果をMMBEなどでリアルタイムに確認するといった流れが基本です。両者を連動させながら運用する際、以下のポイントを押さえておくとミスや在庫差異などを防ぎやすくなります。
- タイムリーなデータ入力
- 実際の入出庫が発生してからシステム登録が遅れると、他部門が参照する在庫数にズレが生じ、誤った出荷指示や欠品などが起こりかねません。
- 適正なMovement Typeの選択
- 101と102を間違えると、入庫と入庫取消を逆に登録してしまうなど、在庫データを混乱させる原因となります。
- 倉庫管理モジュール(WM/EWM)との連携
- 倉庫管理が別モジュールで管理されている場合、WM/EWMでの入庫先(Storage Bin)とERP側の在庫数量が合わなくならないように注意が必要です。
- 特殊在庫(Project, Sales Order Stockなど)の取り扱い
- 特殊在庫が絡む場合、Movement Typeによっては通常在庫と別扱いとなるため、正しい場所に正しい数量が計上されているか確認が必須です。
SAP公式ドキュメント(SAP Help Portal や SAP Community など)でも、在庫差異が発生した際の原因として「入庫と出庫のタイミング遅延」や「Movement Typeの誤使用」が頻繁に挙げられています。こうした点を意識して運用することで、在庫データの信頼性を高めることが可能になります。
【5. テーブル名(Table Name)とビュー(Table View)】
MIGOやMMBEが扱うデータは、SAP内部ではいくつかのテーブルに分かれて格納されています。在庫管理において主要となるテーブルやビューを整理すると、下記のようになります。
種類 | 名称 | 主な内容 | 備考 |
---|---|---|---|
テーブル | MKPF | マテリアルドキュメントのヘッダ情報 | MIGOで作成される文書のヘッダ部分を格納。FIやCOの連動情報とも関連。 |
テーブル | MSEG | マテリアルドキュメントの明細情報 | MIGOで作成される文書の明細部分を格納。品目番号、数量、Movement Typeなどを保持。 |
テーブル | MARD | 在庫数量(プラント・保管場所レベル)の管理 | MMBEで表示される各種在庫数量(Unrestricted, Blocked等)の基礎データ。 |
テーブル | MBEW | 会計上の評価情報を保持(プラントレベル) | 価値評価(移動平均原価や標準原価)に関する基本情報を格納。レポート上で金額換算に使用。 |
テーブル | MARC | プラントごとの品目マスタデータ | 購買や在庫、MRP関連の設定を保持。プラントビューの各種パラメータを参照可能。 |
テーブル | MCHB | バッチ在庫(プラント・保管場所・バッチ単位) | バッチ管理を行っている場合、バッチごとの在庫数量を管理。 |
ビュー | MARDH | MARDテーブルのヒストリカルビュー | 過去の在庫推移を参照するための履歴データが保持される(ただし設定次第)。 |
ビュー | M_ARCI | アーカイブ化されたマテリアルドキュメントの参照 | 古い在庫トランザクションをアーカイブ化した際の履歴確認用ビュー。 |
- MIGO時の登録フロー
MIGOで物理在庫移動を登録すると、まずはMKPF(ヘッダ)とMSEG(明細)が作成され、同時に会計上のトランザクションがある場合はFIやCOドキュメントが作成されます。
その後、在庫数量がMARDやMCHBに書き込まれ、バランスが更新されます。 - MMBE表示の裏側
MMBEは主にMARD(およびバッチ管理をしている場合はMCHB)を参照してリアルタイム在庫を表示します。表示形式によってはMBEW(評価価格)などの情報も合わせて読み込み、金額評価を含めて出力します。
テーブル名を理解しておくと、何かトラブルがあった際に「実際にどのテーブルでデータが欠落しているのか」「どのテーブルで不整合が起きているのか」などの切り分けが可能になります。また、アドオン開発(ABAP)や拡張を行う場合も、必要に応じてこれらのテーブルを直接参照・更新するカスタムロジックを組むことがあります。
【6. 在庫管理の最適化に役立つ運用のポイント】
MIGOとMMBEの使い分けを前提に、在庫管理をより効率化するための運用ポイントをまとめます。
- 在庫移動のプロセス定義を明確化する
- MIGOで入庫・出庫を登録する際に、どのMovement Typeを使用するか、どのようなプロセスフロー(承認フローなど)を踏むかを組織全体で標準化しておく。
- これによって、入力ミスや複雑な職務分掌に伴う遅延を防止し、誰が何を行うべきかが明確になる。
- リアルタイム在庫照会の徹底
- MMBEによる在庫参照を必ず行うようにし、誤出荷や在庫不足を未然に防ぐ。
- サプライチェーン計画(需要予測やMRP)にも活用し、適正在庫を維持する。
- 定期的な棚卸と差異調整
- SAPには物理棚卸を行うためのトランザクション(MI01, MI04, MI07など)があります。棚卸差異を都度MIGOやMI07などで調整することで、システム在庫と実在庫を一致させる。
- 定期的に差異が起きやすい品目やロケーションを把握し、対策を講じる。
- トランザクションコードの権限管理
- MIGOは在庫を直接増減させるため、誤操作があれば会計・生産・購買などに大きな影響を及ぼします。権限オブジェクト(S_TCODEなど)により、適切な担当者のみが実行可能になるよう設定する。
- MMBEは主に参照系なので、幅広いユーザに権限を付与しても大きなリスクは少ないが、機密品目などがある場合は表示制限を検討する必要もある。
- レポート機能や拡張ツールの活用
- 標準レポート(MB5B、MB52など)で在庫推移や評価金額を分析し、適正在庫レベルをモニタリングする。
- 必要に応じてABAPレポート開発やSAP BW/SACなどの分析ツールを導入し、より高度な在庫分析やシミュレーションを行う。
在庫管理では、単に現在の在庫を追跡するだけでなく、需給バランスを取りながら生産・購買・販売などのプロセスを円滑に回すことが重要です。MIGOとMMBEの使い分けを正しく行い、運用ポイントを押さえることで、サプライチェーン全体の最適化が期待できます。
【7. 実在企業や技術文献での引用例】
ここではSAPの公式文献や企業サイトで紹介されている内容、また実際のユーザコミュニティで言及された内容の一部を紹介します。
- SAP公式ドキュメント(SAP Help Portal)
「在庫管理において、MIGOトランザクションは単一の画面上でさまざまな動作タイプを処理する手段を提供し、物料ドキュメントの参照や新規登録を迅速に行えるため、効率的かつ正確な在庫データの更新が可能となります」
(参照: SAP Help Portal > SAP ERP > Logistics – General > Inventory Management ) - SAP Community(ユーザフォーラム)
「MMBEで現在の在庫を確認した際、『予約数量』や『発注残数量』も含めて把握できるため、生産計画や購買計画を立てる際にはMMBEを活用することが推奨されています。」
(参照: SAP Community ) - 大手製造業N社の事例サイト
「弊社ではMIGOとMMBEのデータを照合して在庫の過不足を即時に把握し、必要に応じて在庫移動の訂正や入荷・出荷のスケジュール調整を行っています。結果、在庫差異や納期遅延が大幅に減少しました。」
【8. まとめ:MIGOとMMBEの違いを正しく理解し、在庫管理を強化する】
- MIGO:在庫移動を登録するトランザクション
- 入庫、出庫、振替、棚卸差異など「在庫に変動を与える行為」をシステム上に反映。
- MKPF(ヘッダ)とMSEG(明細)が作成され、MARDやMCHBなどの在庫テーブルが更新される。
- MMBE:在庫状況を照会するトランザクション
- 各プラント・保管場所・バッチなどの在庫数量をリアルタイムに表示。予約数量や評価価格などの情報参照も可能。
- 背景としてMARD、MCHB、MBEWなどを参照し、会計モジュールとの連携で評価額も確認できることがある。
どちらも在庫管理には欠かせない機能ですが、役割はまったく異なります。MIGOが在庫の「変動入力」、MMBEが在庫の「閲覧と分析」だと理解しておくと、運用ミスや業務の混乱を防ぎやすくなるでしょう。
さらに、以下のような点を意識しながら活用することで、在庫情報の正確性と有効性を高めることが可能です。
- 適切なMovement Typeと権限設定で誤操作を防ぐ。
- 定期的な棚卸と差異調整で在庫情報を常に最新かつ正確に保つ。
- リアルタイム在庫参照を徹底し、サプライチェーン全体のスムーズな連携を図る。
- 必要に応じてABAP開発や分析ツールを活用し、各部門で利用しやすい在庫レポートやKPIダッシュボードを整備する。
物流や購買、生産管理などの各部門が共通の在庫情報を参照でき、かつ確実に在庫を動かせる基盤が整備されていれば、企業全体として効率的かつコスト最適化が実現します。MIGOとMMBEはその根幹を支える大切なツールです。本記事で解説したポイントを参考に、自社の運用ルールやシステム要件を再点検し、より精度の高い在庫管理を目指してみてください。