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SAP過去問 (SAP Exam)

【SAP】MIGOの移動タイプ一覧と実務での使い分けポイント

SAPの在庫管理(Inventory Management)において中核的な役割を担うトランザクションがMIGOです。発注伝票に対する入出庫だけでなく、社内での在庫移動や棚卸差異の調整など、多岐にわたる操作が可能になります。そこで重要となるのが「移動タイプ」の概念です。移動タイプを正しく理解し、ビジネスシナリオに即した使い分けを行うことで、在庫管理の精度と効率を高めることができます。

本記事では、よく使われる移動タイプと実務での使い分けポイントについて、10の着眼点を中心に解説します。必要に応じて社内での運用フローを整理するときのヒントやSAP標準の機能を活用した事例なども織り交ぜながら、さまざまな角度から在庫管理のポイントに触れていきます。最後まで読み進めることで、業務要件に合わせたMIGO画面での移動タイプ設定・運用方法が体系的に理解できるようになるはずです。


1. MIGOと移動タイプの基本的な考え方

1-1. MIGOの役割

MIGOは、SAP ERPやSAP S/4HANAにおいて在庫を動かすための中心的なトランザクションコードです。MM(Material Management)モジュールの一部として位置づけられ、購買や生産、販売など多部門にまたがる在庫の流れを管理します。具体的には、以下のような操作を一元的に行います。

  • 購買発注に対する入庫処理
  • 返品や取り消し(キャンセル)処理
  • 会社コード間・プラント間などの在庫移動
  • 生産オーダーやコストセンターへの在庫消費(出庫)
  • 棚卸差異の調整処理

これらの操作は、**「移動タイプ」**を指定して在庫を動かすことで、勘定科目との仕訳や在庫数量の増減の性質をシステムに伝えています。

1-2. 移動タイプが重要な理由

移動タイプは在庫数量と在庫評価額(会計)にどのような影響を与えるかを定義するものです。たとえば「101」であれば発注伝票に対する入庫処理として定義され、仕入れ勘定の貸借や在庫数量の増加につながります。一方、「261」であれば生産オーダーへの出庫として扱われ、在庫数量は減少し、オーダー側のコスト計上につながります。このように移動タイプをきちんと使い分けることで、正しい会計処理と正確な在庫管理が実現できます。


2. よく利用される主な移動タイプと基本用途

MIGOで頻繁に利用される代表的な移動タイプを表で整理します。SAP標準として提供される主要なものだけでも数十種類存在しますが、ここでは比較的よく使われるものを抜粋します。

移動タイプ名称(一般的な説明)主な用途
101発注伝票に対する入庫(GR)購買発注に対する正味入庫
102101の取り消し入庫の誤処理取り消し
122返品(発注伝票参照)仕入先に対して返品する場合
161返品(仕入先へ返却配送)仕入先への返却配送処理
201コストセンターへの出庫部門消費などの直接消費
202201の取り消し出庫の取り消し
261生産オーダーへの出庫生産や組立での使用資材を工場指図に消費
262261の取り消し出庫の取り消し
301プラント間移動 (一段階)プラントA→プラントBへの在庫移動(単純移動)
303/305プラント間移動 (二段階)発送(303)と受入(305)に分けて処理
309材料→材料の振替同一プラント内での材料コード変更
311ストレージロケーション間移動(一段階)倉庫内在庫の移動 (例:保管場所A→B)
313/315ストレージロケーション間移動(二段階)発送(313)と受入(315)に分けて処理
561初期在庫システム導入や在庫棚卸の際の初期登録
562561の取り消し初期在庫登録の取り消し
651出荷ダメージやサンプルなどの返品扱い返品の仕訳として用いられることがある
653客先返品 (出荷伝票参照)客先からの返品を在庫として戻す場合
655653の取り消し返品の取り消し
701棚卸差異(プラス差)実在庫が帳簿在庫より多い場合
702棚卸差異(マイナス差)実在庫が帳簿在庫より少ない場合

この表にある移動タイプが、一般的に多くの企業で使用される代表例です。ただし、企業や業種によってはカスタマイズされた独自の移動タイプが存在する場合もあります。その場合、上記のSAP標準をコピーしてアダプテーションするケースが多いです。


3. 実務で覚えておきたい10の使い分けポイント

ポイント1:発注伝票に対する入庫(101)とその取り消し(102)

  • 101は購買発注に対してもっとも基本的な入庫処理
    正式に仕入先から納品された材料を在庫として計上する際に使用します。会計的には在庫勘定が増加し、仕入れ勘定(または買掛金)が計上されます。
  • 102は101の取り消し
    納品書の数値が間違っていた、受入検品で不良が見つかったなどで誤った101の処理を取り消す場合に用います。誤処理を直ちに修正しないと会計と在庫が不正確になるため、素早い処理がポイントです。

ポイント2:返品処理(122, 161)

  • 122はすでに入庫済みの在庫を仕入先へ返品する移動タイプ
    発注参照で行うことが多く、返却時には在庫が減少し、仕入先へのマイナスクレジットや買掛金の減少などが会計的に発生します。
  • 161は返品を“配送”として扱う場合
    仕入先への返送を出荷の形で捉え、SD(販売)モジュール連携で処理するときなどに使用するケースがあります。

ポイント3:コストセンター出庫(201, 202)とオーダー出庫(261, 262)の違い

  • 201はコストセンターへの直接消費
    部署や部門で消費する文房具やメンテナンス部品など、固定資産化しない小口消耗品の出庫で頻用します。
  • 261は生産オーダーへの消費
    組立や加工など製造工程で使用する原材料を出庫する際に利用します。会計上は在庫減少と同時に生産オーダー側のコストとして計上されます。

このように、**「どの原価オブジェクト(コストセンター・オーダー等)に紐づく出庫なのか」**によって使う移動タイプが分かれます。誤った移動タイプを使うと原価計算や原価配分が乱れるため要注意です。

ポイント4:プラント間移動(301, 303/305)

  • 301は一段階移動
    プラントA→プラントBへの移動を一度のMIGOトランザクションで完結させます。数量や会計処理も一括で行われるため、スピード重視のケースに向いています。
  • 303/305は二段階移動
    まず303で“プラントAからの発送”を記録し、その後305で“プラントBへの受領”を登録します。移動中在庫(トランジット在庫)を明確に把握したい場合に有用です。

ポイント5:材料コードをまたいだ振替(309)

  • 309は同一プラント内で異なる資材コードへの振替
    資材番号の管理変更や、類似材料への置き換えなどがあった場合に用いられます。在庫数量自体は変わりませんが、材料の評価クラスや会計上の属性が変わるので、仕訳が発生する場合があります。

ポイント6:ストレージロケーション間移動(311, 313/315)

  • 311は一段階で倉庫内の保管場所を移動
    同じプラント内に倉庫Aと倉庫Bがあり、A→Bへ材料を移動するケースなど。
  • 313/315は二段階
    出庫と入庫を明確に分けることで移動中在庫を把握できます。移動プロセスが複雑な大規模倉庫でよく使われます。

ポイント7:初期在庫(561, 562)

  • 561はシステム初期導入時に在庫を計上するための移動タイプ
    新規導入や追加ロケーション開設時の棚卸結果を反映させる際に使用されることがあります。倉庫の実在庫数をSAP上に初期登録する場面で便利です。
  • 562は561の取り消し
    初期登録の内容を修正する必要がある場合に用いられます。実務ではミスを防ぐため、まとめて在庫を登録する前に小分けでテストするなどの手順管理が大切になります。

ポイント8:返品・返却関連(651, 653, 655)

  • 651は出荷ダメージ品やサンプルなどを返品扱いにする際に使うことがある
    SDモジュール連携のシナリオで出荷伝票を参照して返品を在庫に戻す、あるいは廃棄扱いで減らすなど、運用によって動きが変わります。
  • 653は客先返品(出荷伝票参照)
    完成品を納品したが不良やキャンセルで返送された場合に、在庫に戻すための移動タイプです。
  • 655は653の取り消し
    誤って返品を受け入れてしまった場合や伝票処理ミスを修正するために使用します。

ポイント9:棚卸差異(701, 702)

  • 701はプラス差異
    実際の在庫が帳簿より多かった場合に、その差異分を在庫に反映させます。例えば棚卸で1,000個とカウントしたがシステム上999個しかなかったときに使用します。
  • 702はマイナス差異
    逆に実在庫が少なかった場合に使用します。差異原因を究明し、不良廃棄や盗難などが判明した際の会計処理にも紐づいてきます。

ポイント10:基本以外の特殊移動タイプ

ここまで述べた以外にも、移動タイプ641(出荷伝票による出庫)643(ストックトランスポート注文)マニュアル予約出庫用のものなど、さまざまなバリエーションが存在します。カスタマイズで企業独自の移動タイプを設定する場合もあるため、導入プロジェクトや運用設計の段階で「標準のどれをベースにするか」を決めておくことがポイントです。


4. 実務への応用:運用フローと注意点

4-1. 運用フローの例

多くの企業では、在庫関連のフローを以下のように整理しているケースが見られます。

  1. 購買フロー
    • 発注→(サプライヤー納入)→MIGOで101入力→請求書照合(MIRO)
  2. 社内移動フロー
    • MIGOで311 (倉庫A→倉庫B) → 移動後の在庫確認
  3. 生産出庫フロー
    • 生産計画/工場指図作成→MIGOで261(出庫)→生産完了→在庫受入(101または特殊移動タイプ)
  4. 返品・返却フロー
    • 購買フローで受け取った在庫を122で返品 → 倉庫在庫と買掛金の清算
    • 客先からの返品は653で在庫戻し、もしくは廃棄・修理対応
  5. 棚卸フロー
    • 実地棚卸→システム差異を確定→701/702で差異登録

このようなフローを定義する際、移動タイプを誤って選択すると、在庫数量が合わなくなるだけではなく、会計上の仕訳がずれる可能性があります。そのため運用上は、担当者の作業手順や画面マニュアルを整備し、定期的にレビューすることが推奨されています。

4-2. トランザクションコードの分割運用

MIGOは非常に多機能である反面、画面が複雑で担当者が誤った操作をしやすいという声もあります。これを防ぐため、企業によってはMB1A/MB1B/MB1Cなどのクラシックトランザクションを分けて利用しているケースも一部残っています。SAP S/4HANAの新しい環境では、原則MIGOで統合されていますが、役割権限の設計などで誤操作を防止する仕組みを導入することが重要です。

4-3. 仕訳と連動する会計科目

移動タイプを使い分けるとき、会計科目評価クラスとの連動が必ずセットで考えられます。代表的な例としては以下のような仕訳が発生します。

  • 101 (GR: 入庫)
    • 借方:在庫勘定 (Inventory)
    • 貸方:買掛金勘定 (GR/IRのクリアリングアカウントなど)
  • 261 (生産オーダー出庫)
    • 借方:生産オーダーの消費勘定 (原材料消費など)
    • 貸方:在庫勘定

もし在庫の評価クラスを間違えていると、会計科目の連動も誤った仕訳を起こしてしまうため、マテリアルマスタやカスタマイズの設定を事前によく確認する必要があります。

4-4. 監査対応とログ管理

MIGOの操作は監査対象となることが多く、「誰が、いつ、どの移動タイプで、どの量を動かしたか」 を追跡できるように管理することが求められます。SAP標準でも**変更履歴(log)表示トランザクション(MB03, MB51など)**で確認可能ですが、インターフェース連携や追加承認ワークフローなどを導入している場合は、監査証跡が分散しがちです。ワークフローシステムやDMS(ドキュメント管理)と組み合わせ、証跡を一元管理するのがベストプラクティスです。


5. カスタマイズ・拡張のポイント

5-1. 独自移動タイプの作成

SAP標準には存在しない特殊な業務形態の場合、OMJJ(移動タイプの設定)を使って新たな移動タイプを作成することがあります。標準の移動タイプをコピーし、勘定設定や数量消し込みのルールを変更することで、特定の工程に合わせた処理が可能になります。ただし、社内で利用するユーザーマニュアルを整備することと、過度な増やしすぎは混乱を招く可能性があるため注意が必要です。

5-2. ユーザーエグジットやBADI

MIGOにはMB_MIGO_BADIなどのユーザ exits/BADIを用いることで、移動タイプごとに追加ロジックを組み込むことが可能です。たとえば、下記のような要件がある場合に活用が検討されます。

  • 移動タイプ261(出庫)で特定の材料はロット管理を強制
  • 在庫移動時にユーザーが入力したシリアル番号を自動検証
  • 返品時にカスタムステータスを更新し、QA(品質管理)部門への通知を出す

これらの拡張は、SAP公式ドキュメント「SAP Help Portal」や「SAP Press」の関連書籍(例: “Materials Management with SAP ERP by SAP Press)でも言及されており、多くの企業が導入時やプロセス改善時に取り入れています。

5-3. メタデータ管理と検証

移動タイプをカスタマイズした場合、テスト環境でしっかりと動作検証することが極めて重要です。数量差異や評価額のずれが発生すると、月末締めや棚卸時に大きな混乱を招きます。複数のシナリオ(発注参照、オーダー参照、棚卸参照など)でテストケースを定義し、開発・本番移行前に必ず検証しましょう。


6. 企業での導入事例・参考文献

6-1. 導入事例

  • 製造業A社: 生産拠点が国内外にまたがるため、プラント間移動(303/305)を活用して在庫のトランジット状況を可視化した。結果として在庫差異や輸送コストを大幅に削減した。
  • 卸売業B社: デポ(保管場所)が多数あり、倉庫内移動(311)のオペレーションミスが相次いだ。そこでMIGO操作画面にユーザーエグジットを組み込み、誤った移動タイプを選択できないようにしたところ、ミスが激減した。

6-2. 参考文献・サイト

  • SAP Help Portal: https://help.sap.com/
    • “Logistics Execution (LE) -> Inventory Management -> Goods Movements”などのセクションに詳細あり。
  • SAP Press書籍:
    • “Materials Management with SAP ERP”, “Inventory Management and Optimization in SAP ERP” などで移動タイプや在庫評価の仕組みを詳細に解説。
  • SAP Community: https://community.sap.com/
    • Q&Aやブログで最新の技術情報や事例が共有されている。

企業サイトや技術書籍においても、移動タイプごとの会計連携や運用上の注意点が多く言及されているので、導入フェーズや運用開始後の改善フェーズで定期的に参照するとよいでしょう。


7. トラブルシューティングと運用のコツ

7-1. 移動タイプ選択ミスによる差異

「本来101で入庫すべきところを201で処理してしまった」などのミスが発生すると、すぐに取り消し(102 or 202)や修正移動(309など)で対処します。ミスを発見しやすくするために、**毎日の在庫レポート(例: MB52, MMBE, MM03)や会計伝票チェック(FBL1N, FBL3Nなど)**を習慣化している企業もあります。

7-2. 棚卸差異の原因追及

棚卸時に701、702の差異を頻繁に出す状況は要注意です。移動タイプの選択や在庫計上が正しく行われていないか、社内のワークフローに問題があるかなどを見直すきっかけになります。必要に応じてロット管理やシリアル管理を導入するなど、運用改善を検討すると良いでしょう。

7-3. 自動化とRPA活用

大量のMIGO入力を人手で行っていると、移動タイプ選択を誤るリスクが上がります。近年、**RPA(Robotic Process Automation)**やIDoc連携などを活用することで、システム間のデータ連携を自動化し、手作業を減らす取り組みが進んでいます。移動タイプが自動的に設定されるようにすると、大幅なエラー削減と効率化が期待できます。

7-4. 教育と社内浸透

システム的な対策と同様に、ユーザー教育は欠かせません。SAP画面上で「何を入力すればどのような在庫移動が起き、どんな会計仕訳が発生するのか」を理解することが、誤操作防止への最善策といえます。
特に、新人や異動してきた担当者向けには、頻繁に使われる移動タイプ(101, 201, 261, 301, 311など)を中心に、実際のオペレーションデモを交えたトレーニングを行うことが推奨されています。


8. まとめ:正しい移動タイプの使い分けが在庫管理の鍵

SAPのMIGOを通じて在庫を動かす際に、移動タイプを正しく選択することは非常に重要です。誤った移動タイプで処理してしまうと、在庫数量や会計仕訳が狂い、最終的には管理コストの増大や財務諸表への影響につながります。

  • 101, 102: 購買発注に対する正規の入庫とその取り消し
  • 201, 202, 261, 262: コストセンター・生産オーダーなどへの出庫と取り消し
  • 301, 303/305, 311, 313/315: プラント間やストレージロケーション間の在庫移動
  • 561, 562: 新規導入や棚卸調整に伴う初期在庫登録と取り消し
  • 701, 702: 棚卸差異を反映するための移動
  • その他(309, 651, 653, 655など): 材料の振替や返品シナリオ

このように多岐にわたる移動タイプを使い分けるためには、社内フローの整理や権限管理、教育が重要なカギとなります。また、拡張機能やRPAを活用することで、人為的ミスを減らし、在庫管理全体の精度を高めることも可能です。SAP標準機能と運用上の工夫を組み合わせながら、在庫管理を最適化していくことが企業の競争力強化にもつながるでしょう。


以上が、SAP MIGOにおける移動タイプの一覧と実務での使い分けポイントに関する解説です。企業ごとに独自の要件がある場合は、今回紹介した基本移動タイプをベースに拡張やカスタマイズを行いつつ、しっかりとテストをしてから本番運用に移行することをおすすめします。正しい運用を続けることで、在庫の正確性と会計上の整合性を維持し、組織全体の業務効率を高めることができるはずです。

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