今回は「MIGOの物料受入処理」を中心に、SAPの入庫および在庫管理における基本ステップや運用上の注意点、さらに実務ですぐに役立つノウハウを詳しく紹介していきます。
この記事は、特に以下のような方々に役立つ内容です。
- 企業の在庫管理や購買業務に携わっている方
- これからSAPを導入・運用する企業のシステム担当者
- SAP ERP(ECC)やS/4HANAにおけるMM(マテリアルマネジメント)モジュールの学習者
- すでに運用中だけれども、MIGOをもっと効率的に使いたい方
- 1.MIGOとは何か?― SAPにおける中核的な在庫管理トランザクション
- 2.MIGOの画面構成と基本操作の流れ
- 3.MIGOとMB01など旧トランザクションとの比較
- 4.【実例】MIGOを使った購買発注に対する入庫処理の詳細
- 5.移動タイプと在庫タイプの選択が重要
- 6.MIGOにおける検品プロセスと品質管理との連携
- 7.在庫照会・レポートとの連携で得られるメリット
- 8.会計(FI)および管理会計(CO)への影響
- 9.MIGOの運用上の注意点とよくあるトラブル
- 10.MIGOと他モジュールの連携で実現する業務効率化
- 11.ユーザーエグジット・BAdIによるカスタマイズ
- 12.運用定着を進めるためのポイント
- 13.MIGO活用で得られる効果と成功事例
- 14.まとめ― MIGOの正しい理解が在庫管理のカギ
1.MIGOとは何か?― SAPにおける中核的な在庫管理トランザクション
MIGO(Goods Movement)は、SAPシステムの中でも在庫管理(Inventory Management)を行う上で中核となるトランザクションです。具体的には、以下のような業務イベントを処理する際に使用します。
- 物料受入(入庫)
- 物料出庫
- 在庫間移動
- 在庫調整(差異調整など)
企業が購買発注をした資材・商品が実際に倉庫へ到着したタイミングで在庫を計上し、会計上の仕訳を起こすのが「物料受入処理(Goods Receipt)」です。この処理を正しく行うことで、リアルタイムかつ正確な在庫数量を把握することができ、購買管理や生産計画における根拠データとして機能します。
特に、購買管理(MM-PUR)や倉庫管理(WM、EWM)、会計(FI)、生産管理(PP)などのモジュールとも連携しているため、MIGOの操作を正しく理解していないと、企業全体で使用する在庫データに誤差が生じるリスクがあります。逆に言えば、MIGOを正しく使いこなせば、信頼できる在庫情報を常に把握できるようになり、業務の効率化やコスト削減に大きく寄与できます。
引用: SAPヘルプポータル – SAP ERP (Inventory Management)
2.MIGOの画面構成と基本操作の流れ
MIGOの画面は主に以下のセクションに分かれています。
- ヘッダ部:処理の種類(入庫、出庫、在庫移動など)や参照ドキュメント(購買発注番号、納品書番号など)を指定
- 明細部:物料番号、数量、保管場所などの詳細データを入力する領域
- 追加タブ:会計情報や品質検査情報など、追加的なデータ入力や参照を行うタブ
物料受入処理(Goods Receipt)の場合、通常は購買発注(PO)を参照して入庫を行います。具体的な手順は以下の通りです。
- トランザクションコード「MIGO」を入力し、MIGO画面を起動
- 画面上部のアクション(例:Goods Receipt)を選択
- 参照するドキュメント種別(例:Purchase Order)を選択
- 購買発注番号を入力し、明細を呼び出す
- 必要な明細行を選択、入庫数量や保管場所などを入力
- 入力内容を確認し、問題なければ記帳(Post)ボタンを押下
このフローによって実行されるのは、在庫数量の更新と会計上の仕訳作成です。SAP内部では、在庫科目や仕入諸掛科目などの自動仕訳設定(Automatic Account Determination)が行われるため、会計情報にもリアルタイムで反映されます。これこそがSAP統合システムの強みと言えます。
3.MIGOとMB01など旧トランザクションとの比較
SAP ERPでは、以前までMB01
などのトランザクションを使って入庫処理を行っていました。しかし、SAP ERP 6.0以降は、MIGOを標準トランザクションとして利用する形が推奨されています。MIGO画面では、複数の移動タイプ(入庫、出庫、在庫移動など)をまとめて処理できることが特徴です。以下に主なメリットを示します。
- 一元管理: さまざまな在庫移動処理を一つの画面で実行可能
- 操作性向上: ドキュメント参照や明細表示が直感的
- 拡張性: ユーザーエグジットやBAdIなどを用いたカスタマイズが容易
もちろん、システムの導入時期や運用方針によってはMB01などを使用している企業も存在しますが、将来的にS/4HANAへ移行する際は、MIGOの使用へ切り替えることが一般的です。そのため、今からSAPを学ぶ場合は、MIGOを前提に習得しておくことを強くおすすめします。
4.【実例】MIGOを使った購買発注に対する入庫処理の詳細
ここでは、具体的なシナリオを想定して説明します。例として、「文房具を100個発注したところ、そのうち50個が先に納品された」というケースを考えます。
- 購買発注の確認
購買担当者が購買発注(PO)を作成し、発注番号を取得します。たとえば「4500001234」のような番号が振られます。 - 実際の納品
サプライヤーが指定日に商品を50個だけ先行出荷します。納品書などが添付される場合もあります。 - MIGOによる入庫処理
倉庫担当者が、受け取った商品を検品後、SAPにログインしてトランザクションコードMIGO
を起動します。
- 上部のドロップダウンからGoods Receiptを選択
- Purchase Order参照を選択し、PO番号「4500001234」を入力
- 該当行を選択し、入庫数量を50と設定
- 保管場所を「001」(例:本社倉庫)などに指定
- 問題なければ記帳(Post) - 在庫および会計の更新
記帳ボタンを押すと、在庫数量がシステム上で即座に増加します。同時に会計仕訳(仕入関連の勘定科目や在庫勘定など)も自動生成されます。 - 残りの納品
後日、残りの50個が納品されたタイミングで、同じPO番号を参照して再度MIGO入庫を実行します。こうして、最終的に合計100個が入庫されたときにPOは完了ステータスとなります。
このように、購買発注を参照する形で入庫処理を行うことで、PO上に設定された単価や仕入条件などをシステムが自動参照し、正しい会計処理と在庫数量の管理を行います。
5.移動タイプと在庫タイプの選択が重要
SAPでは「移動タイプ(Movement Type)」という概念があり、入庫や出庫、在庫移動などのビジネスシナリオを識別するための三桁の番号が存在します。代表的な移動タイプは以下の通りです。
移動タイプ | 説明 |
---|---|
101 | 購買発注に対する入庫 |
102 | 101の取消(入庫取り消し) |
201 | コストセンターへの出庫 |
301 | プラント間の在庫移動 |
561 | 初期在庫登録(Go-Live時など) |
物料受入の場合、101
が一般的ですが、システム設定や業務フローによりカスタマイズされた移動タイプが使用される場合もあります。また、「在庫タイプ(Stock Type)」の指定も重要です。以下のような在庫ステータスがあります。
- Unrestricted(無制限使用在庫):すぐに使用できる状態
- Quality Inspection(品質検査在庫):品質検査が完了するまで使用不可
- Blocked Stock(ブロック在庫):返品や破損などでロックされている在庫
入庫時にこれらのステータスを指定することで、企業の品質管理ポリシーや在庫管理ポリシーを適切に反映させることができます。
6.MIGOにおける検品プロセスと品質管理との連携
品質を重視する製造業や食品・医薬品業界などでは、入庫時に検品(品質検査)を行い、合格となったロットのみを「使用可能在庫」としてカウントします。SAPでは、品質管理(QM)モジュールと連携させることで、以下の流れで検査を管理できます。
- 購買発注またはマスタ設定で“検査ロットの作成”を指定
- 入庫(MIGO)時に自動で品質検査ロットが生成
- 検査結果をQMトランザクションで入力
- 不合格品はブロック在庫、合格品のみ無制限使用在庫へ転送
このように、MIGOで入庫したタイミングで検査ステータスを付与しておけば、物料ごとの合否判定が完了するまで他の業務に影響しない仕組みを構築できるわけです。また、SAP標準の機能として「Quality Info Record」や「Inspection Plan」などを使うことで、より詳細な品質要件を設定することも可能です。
引用: SAPヘルプポータル – Quality Management
7.在庫照会・レポートとの連携で得られるメリット
MIGOにより入庫処理が完了すると、即座に在庫照会の各種レポート(MB52
、MMBE
など)に反映されます。これにより、購買担当者や生産管理担当者は最新の在庫数を把握でき、次のアクション(追加発注や生産計画の修正など)を迅速に行えます。
特に、在庫最適化を目指す企業では、不要な在庫を抱えるリスクを抑えつつ、必要なタイミングで必要な量を確保できる仕組み作りが重要です。MIGOをはじめとしたリアルタイム在庫管理によって、過剰在庫や欠品による機会損失を低減し、サプライチェーンの効率化を達成しやすくなります。
8.会計(FI)および管理会計(CO)への影響
物料受入処理を記帳すると、会計の世界では「在庫の増加」や「買掛金の計上」などが反映されます。SAPの自動仕訳設定(Automatic Account Determination)により、移動タイプや勘定設定グループに応じて以下のような仕訳が起きるイメージです。
在庫勘定(Dr) / 買掛金勘定(Cr)
もちろん、実際には勘定コードは企業ごとにカスタマイズされており、在庫割当や価格差異勘定などが発生する場合もあります。管理会計(CO)の観点では、入庫時点で標準コストとの差異が発生する場合に、その差異をどこに帰属させるか(例:生産オーダーか、価格差異勘定か)といった設定も重要です。
このように、MIGOによる在庫移動は単なる数量の更新にとどまらず、財務諸表や損益計算に直接影響します。ERPのメリットを最大限に引き出すためには、FI/COの担当者とも連携して適切な勘定設定を行い、正しい会計処理を担保しなければなりません。
9.MIGOの運用上の注意点とよくあるトラブル
MIGOの入庫処理は一見シンプルですが、以下のようなトラブルが起きるケースがあります。事前に対策を講じることで、システム運用の安定化につなげましょう。
- 参照ドキュメント番号の誤り:
誤った購買発注番号を参照して記帳してしまうと、在庫データや会計データが一致しなくなります。バーコードスキャンやコピー&ペーストなどで入力ミスを防止する運用を徹底しましょう。 - 在庫タイプの選択ミス:
品質検査が必要な物料なのに、誤って無制限使用在庫に入れてしまうと、実際には使えないはずの在庫が使用可能とみなされる恐れがあります。マスタデータと運用ルールを明確にしておくことが重要です。 - 会計仕訳の不整合:
正しい勘定設定が行われていない場合、入庫処理時に想定外の勘定科目に仕訳が起きることがあります。移動タイプごとの勘定設定(OBYCなど)を定期的にレビューし、テスト環境で検証しましょう。 - 部分納品と残数量の誤認:
一部のみ納品されるケースでは、MIGOで入力する数量と残数量の対応が混乱することがあります。受入記録を正確に確認し、購買担当者ともコミュニケーションを取ることが大切です。 - 取消(リバーサル)の処理漏れ:
実際には誤った入庫だった場合、移動タイプ102を使って取消処理を行う必要があります。取り消し忘れがあると、在庫が合わなくなる原因となります。
10.MIGOと他モジュールの連携で実現する業務効率化
SAPは統合システムですから、MIGOは他のモジュールと連携してこそ真価を発揮します。代表的な連携例を以下にまとめます。
- 購買(MM-PUR): 購買発注(PO)情報を参照して入庫処理を行い、発注状況と在庫状況を常に同期
- 倉庫管理(WM/EWM): 入庫指示を受けて最適な棚やロケーションに保管し、ピッキングや出荷と連動
- 生産管理(PP): 生産オーダーで必要な原材料の在庫を正確に把握し、タイムリーな補充を実現
- 品質管理(QM): 入庫時の検品や検査ロットの生成、不合格品の隔離管理など
- 会計(FI/CO): 在庫評価や原価計算、買掛金計上などの会計処理を自動化
これらが連動することにより、企業全体のプロセスがスムーズに流れ、業務データがリアルタイムに可視化されます。結果として、意思決定のスピードアップや部門横断のコミュニケーション強化に繋がるわけです。
11.ユーザーエグジット・BAdIによるカスタマイズ
標準機能だけで要件を満たせない場合、MIGO画面に対してユーザーエグジットやBAdI(Business Add-In)を活用してカスタマイズを行うことが可能です。例えば、以下のような拡張が考えられます。
- 追加の入力項目を表示し、独自ロジックで入力チェックを行う
- 入庫処理完了時に、外部システムへのAPI連携を呼び出す
- 特定の条件下でのみ、記帳前に承認プロセスを挟む
ただし、カスタマイズが増えすぎると運用負荷やアップグレード時の互換性リスクが高まるため、標準機能で対応可能かどうかを慎重に検討することが大切です。
12.運用定着を進めるためのポイント
SAPを導入しただけでは業務改善は達成できません。実際には、現場の担当者がMIGOの操作や在庫管理の考え方をしっかり理解し、日々の業務に定着させる必要があります。以下のポイントを意識して運用を進めると良いでしょう。
- 操作マニュアルの整備:
単にシステムの画面遷移を示すだけでなく、「どのような業務プロセスで、なぜこの入力が必要か」といった背景まで含めた説明書を用意すると定着しやすいです。 - トレーニングと試験運用:
模擬環境(テスト環境)を使って、ユーザー同士で練習すると理解度が高まります。講義形式と実践形式の両方を組み合わせて学習を行いましょう。 - 運用ルールの明文化:
どの段階で検品を行うか、部分納品の場合はどのように数量を管理するか、取消処理は誰が責任をもって行うか等、明確なルールをドキュメント化して全員に周知します。 - 定期的なレビューと監査:
在庫差異が発生していないか、誤った入力が行われていないかなどを定期的にチェックし、問題があればすぐに対策を立てます。
13.MIGO活用で得られる効果と成功事例
最後に、筆者が実際に支援したプロジェクトでの成功事例を簡単に紹介します。
【製造業A社】:
製造業A社では、従来Excelで管理していた原材料の在庫をSAPのMIGOでリアルタイム管理へ移行しました。結果として、以下のメリットが得られました。
- 入庫データが即座に反映されることで、生産計画との不整合が激減
- 月末の棚卸差異が約70%減少
- 購買部門と倉庫担当間のコミュニケーションコストが大幅に削減
【流通業B社】:
海外拠点との輸入業務が多いB社では、船積みベースで入荷予定が複数回に分かれるケースが日常的でした。MIGOの部分納品機能を活用することで、実際に到着した数量に応じた在庫計上が可能になり、リードタイム管理の精度が向上しました。また、品質管理モジュールとの連携により、不良品の隔離管理が自動化され、クレーム対応にもスピード感が出ました。
14.まとめ― MIGOの正しい理解が在庫管理のカギ
以上、「【SAP】MIGOの物料受入処理|入庫と在庫管理の基本ステップ」というテーマで、入庫に関する基本的な流れや注意点、モジュール連携の重要性などを解説してきました。SAPの在庫管理を運用するうえでMIGOは最も使用頻度が高いトランザクションのひとつであり、ここを正しく使いこなせるかどうかが、企業全体の業務効率化に大きく影響します。
特に、以下のポイントを押さえておくと、トラブルを最小化しながら効果を最大限に引き出せます。
- 購買発注やその他のドキュメントを正しく参照し、入力ミスを防ぐ
- 在庫タイプ(無制限使用、品質検査、ブロック在庫)を適切に選択
- 検品が必要な場合は品質管理(QM)モジュールとの連携を徹底
- 会計(FI/CO)へのインパクトを考慮し、勘定設定を適切に保守
- ユーザーエグジットやBAdIで必要最低限のカスタマイズを行う
実務の現場では、入庫処理の遅れや誤入力が重大なサプライチェーンの混乱を招くことがありますが、一方でMIGOを使いこなすことで、リアルタイム管理やコスト削減を加速させることができます。ぜひ本記事を参考に、貴社・貴部署の運用にお役立てください。
最後までお読みいただきありがとうございました。